染め職人の話

人生の先生との出会い
西田さんと出会ったのは、前職の金融機関時代、まだアイロンのあたったスーツをパリッと着ていたときです。営業担当として工房を訪れ、まだ業界のことをなにも知らないぼくに、仕事をしていた手をとめて、親切にいろいろと教えてもらいました。アパレルの生産拠点が日本から中国や東南アジアの地域に流出してしまったこと、百貨店で展開されているブランドのこと、染め職人の仕事、そのサプライチェーン・・・。その話を一生懸命にメモしながら、気づいたら西田さんの趣味が釣りであることとか、奥さまとの馴れ初めとか、芋焼酎のクサいやつがお好きだということまでお聞きしていました。人生の大先輩からそんな話を聞く時間は、仕事というよりは先生からの教えというような感じでした。
海を越える至高の技術
そしてもちろん、西田さんが生み出す技術についても存分に伺いました。京都の染色工房は大きくわけて2つのパターンがあって、「小幅(こはば)」という着物に使われる反物を染める工房と、「広幅(ひろはば)」という洋服やインテリアに使われる反物を染める工房があります。着物産業で栄えた京都は、圧倒的に前者が多く、西田さんの「広幅」を染める工房は希少であることを知りました。「小幅」は、一反が13mほどですが、「広幅」は23mほどあります。それだけ広い場所が必要であることから、その維持が難しいなかで、西田さんの工房はシルクスクリーン(型をつかって柄を染色していく方法)だけでなく、手描きで染めることのできる、世界的にも稀な工房であることを知りました。
さらに西田さんは、半世紀近いキャリアに裏付けられた経験則を総動員して、数々の「ヨソではできない」技法を編み出していました。ろうけつ染め風の独特の割れ模様が特徴的な「彩纈染め(さいけつぞめ)」や、「ぼかし染め」、「すりはがし染め」といった、機械では生み出せない繊細な表情をもつ作品が、その代表作です。西田さんの技術は、海を渡ってフランス・パリへ、コレクションブランドでも採用されるほどの至高へと洗練されていたのです。
さらに西田さんは、
